提箸宏詩集 30/60

絵との関係  ―― アート・カイト展を見て ――

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仮の姿としてそれは壁に吊るされている。絵であろうとする凧と、
凧であろうとする絵。つらぬくように張られている骨。絡み合うよ
うに地に垂れている糸。

絵をささえる作者と糸を持つわたしたち。距離は糸の長さであり、
走りながら離れていく。風と糸の張りを確かめながら、えいっと手
を離す作者。空へ―― 。

糸はのばされわたしたちとの距離を広げる。作者との距離も同様に
広げられる。あるいは作者もわたしたちの一人として糸をつかんで
見上げている。

風も必要である。わたしたちの意志にかかわりなく風がその高さと
方角を決める。そして揺れるわたしたちの視線と糸の引き。

糸を引くと骨がしなる。骨がしなると浮力が絵を引き上げる。引き
戻され、さらに糸を引く。そのようにわたしたちと絵は緊張を保っ
ている。次第に高く昇っていく絵。

問題は背景だと耳もとで誰かが囁きかける。いかなる空を背にわた
したちが絵を描けるかと―― 。

いつしか外は雨が降り始めている。背面にまわると骨が見える。そ
して糸の結び目。絵を透かして雨音が聞こえる。

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