提箸宏詩集 30/60

「十九の蛇口のある絵」のために

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一つ目の蛇口で
きっときみは口をすすいだのだろう
蛇口のほうに口を近づけると
青空が見えたのだろう
だから、きみの
壁いっぱいの大きな絵には
十九の蛇口が並んでいる

二つ目の蛇口
それもきみの汗の思い出
だから、きみは
三つ目の蛇口で
絵の具を溶くための水を満たし
この絵を画き始めたのかもしれない

五つ目の蛇口を画こうとして
きみは家や学校にある
たくさんの蛇口のことを考え始めたのだろう
だから、きみの
蛇口の前には様々なかたちの手が並んでいる

九つ目の蛇口を画き終えたとき
あと一枚がどおしても画けなくて
きみは友達に電話をした
それから、きみの
蛇口からは言葉もこぼれるようになった

ときにはきみの蛇口も血を流す
十三番目がそうだ
ハンマーでたたき壊されている
回復に手間取り
ようやく、きみは
十六番目の蛇口で傷を洗い流している

十七番目できみは溺れかけている
ちょっと過信しすぎたのかもしれない
だから、きみは
蛇口を閉めてくれた
手を画くのを忘れなかった

十九番目の蛇口
それは二枚分の大きさに画かれていて
いま、きみは
その蛇口をひねって
パレットを洗おうとしている

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