提箸宏詩集 30/60

晩夏

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――ひぐらしはいつとしもなく絶えぬれば
   四五日は〈躁〉やがて暗澹   岡井 隆 ――

蝉が
不安定な鳴き声とともに
網戸にあたる。
寝入りばな
不意をつかれた
けたたましさに眠れない。

散歩の途中
道端に犬が何かを見つけ
くわえようとする
羽音とともに突然動き出す、ひぐらし
残酷なまでに残酷な犬と
季節。

すずしさを感じる朝の散歩
蝉の鳴き声が聞こえないと
ふと気づく
晩夏か。
鳴く蝉の数だけ
夏の死はある。

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