提箸宏詩集 30/60

野口さんの庭

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皿を拭きながら
野口さんの庭を見ている

その向こう
市庁舎ビルの横から
朝日が昇ってくる

野口さんの庭は
キッチンの窓と
下の家のガレージ屋根で
三角形に切り取られている

あと二時間たつと
緑の庭が一面黄色く染まる

あと一週間もすると
白い綿毛と薄茶色の茎

あと一か月で
雑草で緑ぼうぼう

野口さんの庭を廻るように
週二回のゴミ出し

これから
ポリ袋両手バランスを取りながら
坂を下り石垣に沿って右に廻り込む

右手の生ゴミ
左手には雑草

月曜日と木曜日
週二回
二十年以上もゴミを運び続けている

石垣の下をくりぬいた駐車場
マツダロータリークーペの横から
箒と塵取りを持ってでてきた
野口さんに怒られたことがあった

臭いが出ないように
きちっと縛って
(手作りの木枠に金網のはられた)
箱の中にいれなさいよ

ほら、これ。

野口さんの家が取り壊されてから
十年はたったろうか

ブロック塀だけが残って
郵便ポストが蔦におおわれている

両手を垂らしながら
まっすぐに伸びた坂、
三軒分のぼる

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