――ひぐらしはいつとしもなく絶えぬれば
         四五日は<躁>やがて暗澹    岡井 隆 ――                               
蝉が
不安定な鳴き声とともに
網戸にあたる。
寝入りばな
不意をつかれた
けたたましさに眠れない。

散歩の途中
道端に犬が何かを見つけ
くわえようとする
羽音とともに突然動き出す、ひぐらし
残酷なまでに残酷な犬と
季節。

すずしさを感じる朝の散歩
蝉の鳴き声が聞こえないと
ふと気づく
晩夏か。
鳴く蝉の数だけ
夏の死はある。

提箸宏詩集「30/60」(2017年6月Webにて刊)より

 月曜と木曜の週二回、ゴミ収集の場所までゴミを出しに行く。高崎の市街地を見下ろしながら、坂に沿って100mほどの道を下っていく。いつの間にか、朝の蝉の鳴き声も虫の声に変わっている。両手はゴミ袋でふさがっている。何かを踏みそうになって、その何かが足元から飛び立つ。蝉。半ば飛べなく、迷走しながら・・・。

 ひぐらしはいつとしもなく絶えぬれば四五日は<躁>やがて暗澹  岡井 隆

 はじめて、この作品と出会ったのは、今から30年ほど前だろうか、池袋の文芸坐だったろうか。「アナザーサイド」という自主製作の映画の中、ブランコが揺れて、そんな中でこの歌が字幕に流れていたと思う。この歌の印象深さだけが残って、誰の作品化は知らないまま過ごしたが、・・・。
 あるとき、書店で福島泰樹の「やがて暗澹」という歌集を手に取って、この歌が岡井隆の作品であるということを知った。池袋の「ぱろうる」あたりだったろうか。とにかくその時、再びその作品に出合い、ときに口ずさむようになった。
 福島泰樹のこの歌集にはこんな歌もある。

 俺もついに口惜しみの灯を燈しけり暗澹ランタンカンテラを提げ

※旧サイトより移行した文章を改稿しています。